アルミ製の軽いドアを開けると、そこはスポーツドライビングのためのアミューズメントスペースだ。ボディと同じように情緒的なカーブは一切なく、メーターとスイッチ、そしてマルチファンクションメーターのモニターを収めた箱が目の前に積み上げられている。
モニターにはカーナビのほか、さまざまな車両データを指針やバーグラフで表示できる。先代GTIRから継承したテクノロジーだ。「グランツーリスモ」の開発者が手がけたそれは、古典的なアナログメーターとは違う楽しさがある。燃料計や水温計もこっちに集めればよかったのにと思えるほどだ。
フロントシートはけっこうタイトで、腿から肩までをピタッとホールドする。一方のリヤシートは、身長170cmの自分では足は入るけれど頭はぶつかる。でもこういうプラス2の空間が存在することは実用面でありがたい。
ボタンを押してエンジン始動。あっけないほど瞬時に目覚める。猛獣の唸りのようなBGMを耳にしながら、まずはA(オート)レンジのまま街の流れに乗る。ここでもっとも印象的なのは、岩から削り出したようなボディの剛性感と、圧倒的になめらかな駆動系の回転感だ。
日本が世界に自慢できるコトはいくつもある。そのひとつが高度な金属加工技術だ。東京下町の町工場がNASAの重要部品を手がけているという事実を知っている人もいるだろう。このソリッド感、スムーズ感は、そういった先端工業の集大成という感じがする。日本らしさが伝わってくるのである。
このボディのおかげで、乗り心地は固いけれど荒さがない。ダンパーのモードをいちばんハードなRにセットしてもツラくはなく、鋭いショックをたくみに吸収するコンフォートモードはプレミアムセダン並みの快適さだ。
でもこれが本性でない。ということでM(マニュアル)レンジに移してパドルを弾き、右足を踏み込む。流すだけなら2000回転以下で足りるエンジンは、それを超えるとレスポンスを示し、3000回転でターボが炸裂。その後もどんどん力を上乗せしながら、7000回転まで一気に回りきる。
もっとも実際はこんな冷静に観察できない。とにかく速いのだ。公道でフルスロットを試しても、一瞬でゆるめざるを得ない。持て余してしまうほどの力。まさにスーパーカーだ。
窓を開けるとフォーンという低い排気音が耳に届く。でも閉めた状態では、エンジンの唸りやプロペラシャフトの回転音などがメイン。ハイテクを駆使した内容とは裏腹の、重厚なる機械の息吹。伝統的なクルマ好きの心を揺さぶる要素も持っているのだ。
このパワーとトルクを伝達するのは、デュアルクラッチの2ペダル6MT。日産初のメカニズムだが、そうとは思えないほど完成度が高い。シフトアップ・ダウンとも流れるようにこなし、レバーやパドルのタッチは上質でさえある。同様の内容の某ドイツ車を、たった一作で追い越してしまった。
ステアリングは重いけれど、作動感は滑らか。ここでも工作精度の高さを実感する。その後は一瞬だけ車体の重さが伝わるが、だからといって右足の力を抜く必要はない。踏み込むことでフロントタイヤにもトルクが送り込まれ、ハイパワー&ビッグトルクを確実に路面に伝え、それを強烈な前進力に変換し、コーナーを脱出していくのだ。
ウェットのサーキットではグリップを失いがちだが、ドライの公道では何をやっても切ったとおりの曲がる。まさに底なしだ。高性能車に慣れていない人が乗ったら、気持ちいいのを通り越して、あまりの横Gで気分が悪くなるかもしれない。それほど強烈だ。
操る楽しさがないわけじゃない。腕に自信がある人はVDC(車両姿勢制御装置)をRモードにすれば、スロットルワークで向きを変えたりできる。でもスピンに陥りそうになると、GTIRはサッと手を差し伸べてくれる。
GTIRは走行性能だけがスーパーなのではない。極上のスムーズネスや絶大なスタビリティがそこに同居している。しかも免許取りたての人間でも操れる。この超高精度、超万能性を実現したのは、日本が自慢とする技術の数々であるはず。だからこそ欧米のライバルとは違う感動が得られるのだ。